最終選考結果


【大 賞】中島真理子  「重くて、脆くて、とても厄介なもの」
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重くて脆くて扱いづらい素材であるにもかかわらず、人は石という素材で何か別の「モノ」をつくろうとします。けれども、私は何かをつくり出すことではなく、その姿かたちを変えることで、その石が“在る”ことに気づくことができればと思っています。
石の性質を際立たせただけのこの作品を街中に置くことで、「モノ」そのものにではなく、それが“在る”という「モノ」の存在自体に興味を持つ人が一人でもいたとすれば、面白いと思うのです。


【準大賞】岡村 光哲 「ZORO²」
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この作品の最初のイメージは一つの楔(くさび)でした。それがいくつも重なり、—ぞろぞろーと動く様な姿になりました。人は一人で生きていけないように、街も多くの人達の関わりの中で成長していきます。国立市も一本の桜、一人の市民から成長し、今の緑に囲まれた学園都市として多くの人達に愛されています。一つの楔が重なり成長するように、これから国立市が文化、生活の発信地であることを願いつつ、ひとつずつの楔に思いを託しました。


【優秀賞】チーム美山 「風の球体」
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私達の祖先が初めて地球儀なるモノを知ったのは今から400年ほど前、日本がいかにも小さな島国で世界がどれ程大きいのかに驚かされた事であろう。現代、情報社会に生きる私達だが、どれ程世界を意識して生活しているのだろう。なくならない紛争、難民、飢餓、止められない砂漠化…。普段生活している街角に地球儀を出現させて、日々の生活の中で地球を意識してもらう事がねがいである。


【優秀賞】長野真紀子 「記憶のひきだし」
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大切にしたい風景がある

幼い頃に遊んでいた公園や並木道を通りかかった時、現在の私がその場に存在し、目の前の風景を見ているが、そこに見えたものは、過去そこで遊んでいた私の記憶だった。この作品を見ることで人が持っている記憶が想起され、この街が私達と共に有り、幸福感を与えてくれる場の証明になることを願い制作した。


【優秀賞】土田 義昌 「進化景色(都市の森)」
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歴史をこえて、人間が思い大切にしていることを表現し、伝えていけるものをイメージしている。作品がうつりかわる木々の変化にみえたり、都会の町の風景や家族がよりそうようにも見えたりと、印象を膨らませていただきたい。 人にやさしい街で、ほっとできる彫刻を制作してみた。


【市民賞】金 景暋 「月出」
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月をイメージした作品。月は誕生や真理の始まりなど様々な意味を含め、暗いところでもっと光輝く。特に、満月のときはとてもきれいで、我々の心を動かすのではないか。その時の我々の感情と言葉を考えながら水で表現し、新しい動きを創作する。満月の形を考え、月が時と場所によって変化するように、作品も見る角度によって変わって見えることを表現。その形をステンレススティール素材で制作し、水の存在感を高める。


講 評

■選考委員長 建畠 晢(あきら)(京都市立芸術大学学長・埼玉県立近代美術館館長)
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DSC_0099-01「風の球体」
陶器というモニュメントしては難しい素材ですが、キャリアのあるグループのようで、マケット通り、きちっとできていました。
この作品が面白いのは、色も形もずんぐりむっくりして、色彩も地味でビジュアルに目立つという感じではないのですが、グローバリズムの時代にあって、あるメッセージを市民に向けて発している作品です。大学の門の横に設置されていて、メッセージを発する場所としては良い場所だと思います。形態的にも、非常にシンプルで地味な中にも、どっしりとした存在感がある作品だと思いました。

DSC_0105-01「重くて、脆くて、とても厄介なもの」
作品タイトルに比して、非常に清楚な美しさがあり、しかも緊張感があって、非常にシンプルなのに、ディテールのニュアンスも漂っている作品です。選考会では全員、異論なく大賞に推しました。今回のひとつの収穫だろうと思います。
大学通りの木立の中に、シンプルな形がすっと際立ち、非常に美しい光景ですので、市民の方々に永く愛されるのではないかと思います。

DSC_0115-01「ZORO²」
この作品は、今にも動き出しそうな、動物にもみえるし人間の姿にもみえるような運動感があり、どこかユーモラスなところがあります。
とてもキャリアのある作家の方だと思われ、技術的にも非常に完成度の高い作品です。
多くの人が通られるところに、このような愛されるオブジェが置かれることはとても良いことだと思われます。造形力のある素晴らしい作品です。

IMG_5571-01「月出」
固い金属がしずくのように垂れて下方に広がっている、即ち、固いものが柔らかさをはらんでいるというウイットに富んだ作品だと思います。技術的にも完成度が高い作品です。
また、設置場所もとてもよいと思います。ファンタジーのあるパティスリーの前ということで、広く市民の方に愛されることと思います。

DSC_0128-01「進化景色(都市の森)」
マケットを見たときは、山並みが遠く重なっている光景をイメージし、都市の景観の中で面白いと思いましたが、実際の作品では、そうした大きな光景であると同時に、こどもさんやおにいさん、お父さん、お母さんのような家族連れのイメージもあり、まちなかにあるととてもほのぼのとしたいい作品でした。技術的にもしっかりした作品です。

DSC_0143-01「記憶のひきだし」
他の作品と少し違う雰囲気を持つ作品です。“記憶のひきだし”というタイトルがついていますが、遊園地で遊んだこどものころのことを思い起こさせ、どこか懐かしく、それぞれの人が、それぞれのストーリーを心に紡ぎだすような光景をつくっていると思います。
また、クラシックな神殿風な建物のイメージが、一橋大学の兼松講堂のような歴史的な建物のイメージとシンクロするという意見も選考会で出ましたが、まさしくその通りで大学通りに置かれるのに、相応しいと思いました。


■選考委員 福永 治(広島市現代美術館館長・美術評論家)
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彫刻コンクールとしては非常に成功したと思います。景観に合うほどよいサイズによって、親密な空間ができたことを、関わった人間として非常にうれしく思います。大きくも小さくもなく、ちょうどいいサイズの作品は、市民に親しみを持っていただけるのではないかなと想像しています。
全体的には、それぞれ素材が違い、また具象、抽象のバランスも良い作品が揃いました。その中で大賞作品は、彫刻的に完成度の高い、細かいディテールにもこだわった労作でした。そういう意味で他の作品と異なる、際立った存在感を見せています。
一方で、市民賞の作品はシュールな感じで、少し不思議な光景を作り出しています。またいずれの作品も、設置場所や設置形態にこだわりを持ち、作品の特徴を生かした展示になったことに感心しました。


■選考委員 池田 良二
(武蔵野美術大学教授・公益財団法人くにたち文化・スポーツ振興財団理事)
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昨春より公募を開始、図面審査からマケット審査、市民賞の投票など、約1年近くかけて、作品を設置する運びとしたことが、くにたちアートビエンナーレの特徴だと思います。
このようにして展示された6点の作品が置かれたことで、大学通りに“場”ができた、つまり彫刻の持つ力によって、大学通りの緑地に新たな“場”ができたという感じがします。作家の皆様と、本展に温かいご支援をいただいた市民の皆様にあらためて感謝いたします。
大賞に選ばれた作品は、古代から未来につながるような造形を持った、場の力のある作品だと思います。樹木の生えている地面から、彫刻が生えているような作品が多く、そういう意味でも景観にぴたりとおさまり、市民にもなじんでもらえるように思えます。

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アートビエンナーレ設置場所・選考結果